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こんな子供は、これまで現れたことがなかった。
「何色……?」
様々な者に訊ねてみても、答えは時によって違った。
見る者によってはどころの話ではない。見る時分によって違うのだ。角度や時間帯ではなく、同じ者が見ているのにも関わらず色が変化していく。昨夜はその色に癒されていた者が翌朝になり「怖ろしい」と震えあがることも、珍しくなかった。
ある者は怖れ、ある者は慈悲を受けているようだと言った。
硝子玉のようだと言う者もいた。確かに、硝子は当たる光によって色が変わるという。何も当たらなければ色は闇のまま。光を吸収すればあらゆる色に彩る。中でも光に反射して美しく虹色に光る姿が一番印象的だろう。
しかし、意志を持つ前からある河のそばに集う事になった彼らの瞳が宿す色はそれと同様――否、それ以上に変化する。角度により変わるだけではなく、見る者によって、そしてまた見る時によって、その瞳はあらゆる色を映し出す。
ある者には只の漆黒に。
他のものには色を全く感じない、無色透明に。
またある者には、美しい蒼色に。
そしてある者には、血のように深い茜色に。
「……この子はどうなるのでしょうか」
誰とはわからぬ声が胸に抱いた赤子を見つめ、誰とは確定しない相手へと、若しくは自分自身へと問いかける。無論、答える者はいない。
正しくは答えられないのだ。誰も知らない。こんな瞳をした赤ん坊を、誰も見たことがないからだ。
何も知らない哀れな赤子はただ、自分へと視線を向ける者たちへ視線を送り続けていた。
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