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ある夜更けの事だった。
おぎゃあおぎゃあとか弱き泣き声が辺りに響き渡り、幾人かが目を覚ました。
ああまたかと、そのうちの何人もが思った。
この世界ではよくあることだったのだ。生まれたばかりの赤子の瞳を見ると「そう」かどうか分かる。「そう」だった場合、受け止められない親が決まって成長した赤子を置いて行く場所が、ある河のそばにある穴ぐらだった。
どんな時でも一定の速さで流れる不思議な河には相応の能力があるらしい。置いていかれた赤子の存在を導いて守るように光り輝き、新たな存在はここに居ると、集った者たちへ教えてくれる。
この日も同じように、河は光っていた。
ぞろぞろと集まってくる者たちの目はただ一点に集中し、憐れな、というようなため息が次々と漏れていった。
「おい、へその緒がまだ……」
「まさか産まれて間もないのか」
そんな風にひそひそと言い合う者たちもいた。
確かに棄て置かれる子供は決して珍しくない。しかし、産み落とされて一日も経たないような嬰児がこれまで置いて行かれたことはただの一度もなかった。
大抵は、乳離れをするか否かの頃にぽつんと置かれていくのだ。
突然母を失いただ呆然としているか泣き喚いている姿も哀れだが、へその緒が未だついたまま、よく見れば肌も赤黒さの残るような嬰児を棄て置いていく―――生みの親はどれ程受け入れられなかったのかと、想像することすら出来ない。
光に吸い寄せられるように近づいていく幾人かのうちのひとりが、小さな存在に向かって手を伸ばす。その者へ何か小さく声をかけたのは傍にいた女だ。女は持っていた布を河で洗い、ぎゅうとかたく絞ってから赤子の身体を丁寧に拭いた。
時たま漏れる元気な泣き声は少しずつ静かになり、やがて大人しくなる。
もうひとりの女が今度は乾いた布で赤子の身体を優しく包んだ。ん、ぶう、などと可愛らしい声があたり一面に響き、小さな手足をぴょこぴょこと動かしていた。
周囲の者たちは固唾をのんで彼らを見守った。されるがままに大人しくなった赤子はやがてゆっくりと瞳を開けた。
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