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ぱしゃり。ぱしゃり。
つうう、ぱしゃ。
岩場に腰を下ろし、足の指先を河に浸からせて遊ばせる。
足を上げる度に澄んだ水が指先から落ちていくさまは何度見ても飽きない。まるで宝石のように光る水の玉が自分から落ちるのは、例えるならば芸術に近かった。
「今日も美しいな……おまえは」
河相手に「おまえ」と呼びかけていることは誰も知らない。知られたら恥だとも思うが、知られるきっかけすらないはずだ。
この河はとても不思議だ。そばにいるだけで落ち着くし、何よりどんな天候になろうと波が荒れることも水が濁ることもない。常にゆったりと一定の速度を保ち、透明なまま流れ続けている。光ることさえあるというが、自分は未だその姿を見たことはない。
物心ついた頃からずっと、自分はこの名も知らない河のそばにある穴ぐらに他の子供たちと共に暮らしていた。
共に――という表現は少し適切ではないかもしれない。
子供同士慣れ合うどころか会話すらまともに交わすことはほとんどなく、あくまで個として生活しており、ただ寝床とする場所が一緒なだけだった。食事は周囲の大人たちが差し入れてくれていたから困ることはなかったし、生きていくには何も支障はなかった。まるで餌付けされた野良動物のようだと言う輩がいることは知っている。
しかし、此処を寝床とする者たちはそんな戯言を気にすることはなかった。
自分たちが〝特別〟であると知っていたからだ。〝特別〟であるが故に産みの親が受け止められず、こうして穴ぐらに集うことになったのだから。
例えそれが慰めもならない皮肉だとしても、意地にも似た誇りにかけて〝特別〟だと信じていなければならない。
でなければ産まれた意味がなくなってしまうのだ。
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