1:色を持つ者

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 自分が世に生を受けた事を祝い、齢を数えてくれる者がいないのだから。  外見の面でも背はろくに伸びる気配がないし、ふと思いたった時に河で確認する限りは顔も大して昔とそう変化していないと思う。 「おまえさんは本当にここが好きなんだねえ。……おお、冷たい」    歌うようにゆったりとした口調のまますぐ隣に腰を落とし、脚を自分と同じように河へと伸ばした。  指先しか届かない自分と違って、着物で隠れた長くしなやかな脚は惜しげもなく河底へと沈んでいく。  ……河に呼びかけていたことには触れてこない。聞こえていなかったのかと、ひとまず胸を撫で下ろした。 「断りなく隣に座るな」 「まあまあ、そう言わない。おまえさんが常にそんな様子だから周りと打ち解けられないのだろう? 手負いの獣でもあるまいに」 「此処には慣れ合う必要などない奴らばかりの筈だが」 「そういう意味ではないのだけれどねえ……」    ぴしゃん。  男が右足を振りあげると河野水が勢いよく飛び、顔にかかった。さすがに腹が立ちそちらへ身遣ると、穏やかに笑う男の目と目が合った。  しまった。  自分のほうへ向かせるためにわざと水を跳ねさせたのか。 「ようやくこちらを見てくれたね」    そしていちいち口に出してくれる嫌味っぷり。  この男のこういうところが気に食わないのに、毎度のように引っかかってしまう。  一瞥をくれたあとにぷいと視線を河へもどすと、「おやおや」とにこやかに笑ってくる余裕ぶりにもより一層腹が立った。 「私に声をかける物好きは貴様だけで充分だ」 「それはそれは。光栄だねえ」 「………」    こちらの嫌味は通じない。  いや違う。わかった上で愉しんでいるのだ。  こいつは昔からそういう男だった。  物珍しさから話しかけてくる輩は決して少なくないが、大抵自分の返しでひるむか瞳を合わせた瞬間逃げてしまうかがほとんどで、会話らしい会話を交わしたことがあるのはこの男くらいのものだ。それだけは事実だった。
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