その王子、危険につき、悪い子につき

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 必死に声を呑み込もうとすると余計舌の感触が鮮明となる。生理的な涙が滲んできた。息継ぎの合間に、どうしても声が漏れそうになる。 「僕も君も悪い子だね」  忙しなく肩を動かし、乱れた呼吸を整えていると御堂先輩が最大の弱点である右耳に吐息をかけた。 「もしも、今のが蘭子やさと子だったとしたら」  いつの間にか障子の向こうに揺らいでいた影法師が消えている。去ってしまったのだろうか。 「彼女達を媒体に快楽を得ようとしたのだから」  身近な人物を媒体に、その意味がダイレクトに脳みそに伝わった瞬間、体が熱くなる。芯が熱くなる。  やばい、俺は興奮している。いけないことをしている、その現実に興奮している。早く冷まさないと空気に呑まる。早く、冷まさないと。 「豊福は今、焦っている。感じ始めている自分に気付いているから」  歌うように人の感情を見透かす御堂先輩は、確かに優越感に浸っていた。彼女の欲しい立場が、逆転したその関係が此処にある。それが嬉しいのだと思う。  御堂先輩は男の立ち位置を羨望している。男に攻められたいのではなく、男を攻めたい。それも彼女にとって一つの快楽だ。  「くっ」性感帯のある右耳を丁寧に舐め始める御堂先輩のせいで、声が漏れ、漏れ、漏れて、それに恥ずかしくなって。     
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