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内心で涙を呑んだ矢先、「うっし。んじゃ早速」二階堂、豊福を口説いてみて、と川島先輩が無慈悲なことをのたまった。
要領は女を口説くのと一緒だから、なーんて言ってくれちゃうけど急過ぎるご命令っす。俺も大雅先輩も物の見事に固まってるっす。
「なーにしてるのよ。ほら、二階堂」
「いや……、口説くってどうやって?」
「だから女を口説くように豊福を口説くのよ。簡単っしょ?」
ゼンッゼン簡単じゃないと思いますっす!
ぎこちなく大雅先輩が俺を流し目、空笑いする俺は軽く首を振って同情を示す。気まずさのあまりに沈黙する俺達。一部始終見守っていた鈴理先輩が、他人事のように笑声を上げる。
「さ、早苗。まだ早いみたいだぞっ。ククッ……、あの困った顔。傑作だ」
「るっせぇな」
「酷いっすよ鈴理先輩」
肩を震わせて爆笑してくれる鈴理先輩に俺達は不貞腐れる。
ごめんごめんと謝ってくれるけど、ちーっとも反省の色が無い。好き勝手に笑ってくれている。
「手が掛かるなぁ」
川島先輩は腰に手を当てて、いつも俺と鈴理先輩がやっているようなやり取りをすればいいと助言してくれた。が、それでも俺達の重い腰は動かない。
だってそうでしょーよ。
男が男を口説くっていうその……、オゾマシイ現実ときたらっ。
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