ひとつの甘さのなかで

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        「お嬢様! 玲お嬢様! まだお話の途中でございますよ!」         御堂家に居候して早幾月幾日。  優しい夕暮れの日を障子越しに浴びながら読書をしていた俺は、蘭子さんの喧(かまびす)しい声音にページから顔を上げる。  「お嬢様!」金切りにすら聞こえる蘭子さんの声。比例するように廊下を駆け回る足音が聞こえる。  何の騒ぎだろう。  しおりを挟んで新書を閉じる。直後、勢いよく障子が開かれた。    現れたのは麗しき王子系プリンセス。  今日も短髪があちらこちらに跳ねている。  学校から帰ってきたばかりなのか、学ラン姿のままの彼女は部屋に入るや俺の背後に隠れてしまった。人を盾にする気満々のようだ。  遅れて飛び込んできた蘭子さんは着物の裾を直しながら、「また空さまを盾にして」何かあるとすぐ盾にするのですから。整った眉をつり上げてピシャッと障子を閉めてくる。    御堂先輩は「僕は悪くない」イーッと口端を引っ張って舌を出す始末。  グイグイと人を押して盾にしようとするんだけど、如何せん豊福ガードは防御力が弱い。先輩のお目付けには効かないようだ。     
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