ひとつの甘さのなかで

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 両者に挟まれた俺は目で交互に顔色を窺った後、微苦笑を零して「どうしたんっすか?」何か遭ったんっすか? と事情を求めた。   「聞いて下さいよ」  先制したのは蘭子さんだ。  俺の前で正座をするやお嬢様は我が儘なのですよ、と身振り手振りを大袈裟にして口を開く。   「てんでお茶のできないお嬢様を見かねた私どもが師範をつけようとしたところ、大層お嬢様が嫌がられまして。17にもなって茶道もできない令嬢が何処にいると思います?」    いやあ、俺は16になっても茶道サーッパリなのですが。  「嫌なものを嫌だと言って何が悪いんだ。僕は茶道が苦手なんだ。しかもその師範は男らしいじゃないか! 嫌だ、絶対に嫌だ。僕は受けない!」 「いつまでも男性の方を拒んでも仕方がないでしょう? 社会に出れませんよ。折角男性の方と婚約できたのですから、この機に沢山の方と接する練習をしましょう」   聞く耳を持っていないようだ。  嫌だ嫌だの一点張り。脹れ面を作り、婚約は特別なんだ。見知らぬ男と仲良くできるほど出来た器じゃない等など彼女は猛抗議している。  あまりとやかく言われると御堂先輩のヘソが曲がりに曲がって腹まわりを一周してしまうだろう。そうなれば最後、ご機嫌取りに努めなければいけないのは誰でもない俺だ。  だから進んで仲裁を買って出た。     
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