ひとつの甘さのなかで

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 最初から膝に寝転ぶつもりならそうすればいいのに。微苦笑を零し、髪を撫ぜてやる。指先で髪をつまみ、さらさらと滑らせて指遊び。気にする素振りを見せない御堂先輩は喉を鳴らしている猫のようになされるがまま目を瞑っている。  こうなってしまえば最後、彼女は気が済むまで人の膝で好き勝手するに違いない。  本を読むこともできず、かと言って動くともできず、手持ち無沙汰の俺は彼女の髪を弄る他、時間を潰す方法がない。  さらさらっと髪を抓んでは滑り落としていると、「失礼します」お茶菓子をお持ちしましたよ。女中のさと子ちゃんがお盆を片手に入って来た。   「あらっ、お邪魔でしたか?」    茶化されてしまい、「ほっらぁ笑われたっすよ」俺は責を王子に擦り付ける。  まだツーンとしている王子のご機嫌はイマイチのようだ。反応を期待するだけ無駄だろう。相手の返事は諦め、俺はテーブルに茶菓子を並べるさと子ちゃんに礼を告げた。  あ、今日のおやつは芋羊羹みたいだ。  中皿に数切れのっている羊羹にご満悦した俺は、さと子ちゃんも一緒に食べようと誘う。  「え。でも」遠慮する彼女に、「いいからいいから」俺達の接待をすると思ってさ。これも仕事の内だと笑い、王子がこれだからと立てた人差し指を下に向けて肩を竦める。 「先輩。超機嫌が悪いんだよ。俺一人じゃ荷が重くて。こういう時こそ女の子の癒しが王子には必要なんっイ゛?!」    腰にぞわぞわっと邪悪な気を感じた。       
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