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まずセックスは丁重にお断りさせて頂くことにして……、やっぱ、ぬくもり欲しているから、あれかな。
「キスちょうだいっす」
俺も懲りない男みたいだ。
自分自身にあきれ返りながらも我が儘を告げる。
そしたら足を止めた先輩が振り返って、意地悪く聞いてくるんだ。
「バードとディープ、どちらがいい?」
さっきみたいな動揺はない。答えを分かりきっているんだろう。
勿論俺も分かりきっていると承知の上で答える。
だって先輩に甘えたいんだ。自分の首を絞めることになっても、はっきり伝えたい。
「どっちもちょうだいっす」
―――…きっとこれから数分も経たない内に先輩は俺の我が儘を聞いてくれる。
俺はそれをバネにして恐ろしい窓辺に近付くんだ。
高所恐怖症は簡単には治らないし、記憶が戻ったために自分の過ちや両親の思い出に涙が込み上げることもあると思う。でも先輩がこうして俺のバネになってくれる。だから俺は前を歩こうと思い始めている。
これから先、足踏みしたって先輩は笑わないだろう。
ある程度のところまでは俺に声援を送って見守ってくれるだろう。
どーしょーもなくなったら強引に手を引いてくれるだろう。それが俺のバネになる。
先輩は俺に忘れていた高所の気持ちを思い出させてくれた。この気持ちは大事にしたい。
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