草食、逆転を狙ってみる。

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 ここは踊り場。人気は殆どない。来る生徒は希少。つまりだあれもいない。そこに俺と先輩だけ……、だなんて、そりゃあもう、ね。あれだろ、あれ。そうあれだよ。やばいんだよ、ね!   「せ、せ、先輩。いつも言っていますけど、こういう空気はちょっと」  唇に人差し指が添えられ、言葉が途切れてしまう。   「空が言ったのだ。自分はあたしの物だと。キスして欲しいんだろう? なら、してやるさ。今度は子供だましじゃなく、本物のキスを」    あんたのために場所を移動してやったんだ。    強引に顔を引き寄せ、唇を食んでくるあたし様が口角を持ち上げた。「あんたはあたしのもの」目と鼻の距離で宣言してくる。  まるでケータイ小説のヒーローのようだと他人事のように思った。必然的に俺はヒロインなのだろうか? なんとも可愛くないヒロインなのだろう。……本当なら俺が彼女にこんなことを言うべき立ち位置なのだけれど(性格を考えると、無理だと思うけど)。    少し顔を動かせば、触れられそうな唇の距離に気付く。吐息すら感じるその距離を零にするために、少しだけ顔を前に動かした。  合わさる唇と不意打ちを食らった彼女の面持ち。なんだか得をした気分になる。    「生意気」唇に歯を当てられた。微かな痛覚に眉根を寄せる。それに目で笑い、鈴理先輩が鼻先に口付けした。     
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