草食、逆転を狙ってみる。

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 滑るように、唇に戻って呼吸を一つにする。子供だましじゃないキスをされるのだと本能で察する。だから微かに唇を開けたし、彼女は舌を割ってきた。本来不快である筈のぬめりが受け入れられるのは、彼女のものだからなのか。それとも。  融解する呼吸が熱く、思わず喉を鳴らす。震える手を持ち上げて、彼女の肩に手を置いた。彼女に触れることで、より繋がっている現実を感じる。   「今日の空はいつもより積極的だな。あたしを求めてくれているのか?」    なら、あたしのして欲しいことを察してみてくれないか。  肩を忙しなく動かす俺の顔を覗き込むあたし様の瞳を見つめ返し、顔を紅潮させた。  どうして、こういう時に限って察してしまう聡い俺がいるのだろう。ああでもっ、彼女の好意を返したい。その一心で、カッターシャツのボタンに指を掛ける。上から三つまで外し、鎖骨を露にした。    「お好きに」俺の精一杯に、「五十点だな」誘いに点数を付けられてしまった。  意地の悪い人だと唸りたくなったけれど、空気を壊すのもなんだと思っていい改める。  ケータイ小説の胸きゅんの一つが俺のものだ宣言なら、俺が言えるのはひとつ。 「―――俺を、貴方のものにして下さい」  間髪容れず、彼女は満面の笑顔を作った。   「満点」    細い指先。ざらついた舌。生ぬるい体温。  人の体に所有の証をつけてくる、微かな痛みと赤い痣。     
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