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何秒か沈黙の時間が流れた。
その間にも私のような独り暮らしの大学生が、私たちのいる桜橋を通過していく。桜橋は、この橋の近くに生える大きな桜の木からちなんで付けられた名前らしい。
「…あ、」
何かが分かったように誠さんはこちらに向き直って、口を開けた。
「楠木さんとこうやって毎日会いたいのかな」
「…っ」
私は突拍子もないその言葉に、不覚にもひゅっと息がつまりかけてしまった。「多分そうかもしれない」っと緩いニュアンスで伝えてきた誠さんは、きっと私のこの窮屈な気持ちに気づいていないんだ。
「そんなこと言ったら小春さんに叱られますよ」
私は朝から気が滅入りすぎて自暴自棄に入った。小春さんは、誠さんの同級生で恋人だ。小春さんはこの春に勤務地が地方に決まってしまって、いま2人は遠距離恋愛中なのだ。でもお互いが愛し合ってる。誠さんの右手のくすり指で輝くそれが証明していた。
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