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「おまえら、何やってんだ」
あの頃と同じ熱血な目で、その20代後半という若さで亡くなった森本は心配そうな、でもどこか怒ったような口調で私たちの目の前に立った。
「こんな電車に乗って来たらダメだ」
森本が俊太の腕を掴んで力強く言った。
「帰り方が分からねえんだよ、先生」
「帰り方……」
俊太の言葉を復唱するように、森本が呟いた。
「俺が知っているのは行き方だけだ」
その言葉を聞いて、私の背中に冷たいものが走った。
私たち、どこに向かっているの……?
車内が急に明るくなって、窓から光が差し込んだ。地上へ出て来たのかもしれない。
「……駅が近づいている。俊太、千秋。おまえらは、何か思い出せないことはないか? 混乱してはいないか?」
「えっ?」
私はさっきの俊太の混乱した様子を思い出して、何だか嫌な予感がした。
「そうだったら、何なんだよ」
私と同じ気持ちなのか、俊太も青い顔をしている。
「この電車に乗る者は……自分の身に何が起こったか分かっていないことが多いんだ。おまえらは大丈夫か……?」
意味深な言葉を残して、森本は私たちの前から立ち去って行った。
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