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「あなた、電車に無理やり乗って来てはダメよ」
ふいに目の前に黒いワンピースを着た女性が立った。30代くらいではあると思うけど、可憐な印象で綺麗だと思える女性だった。
そして、女性は吸い込まれそうな大きな黒い瞳で、温度の感じられない視線を俊太に向けていた。
「ああ、すんません」
俊太はいきなり注意されて、戸惑った顔をしながら軽く頭だけ下げた。女性は暫く俊太と私を見た後、また少し離れた席に戻っていった。
あの女性、どこかで見たことがあるような気がした。
「なあ、今の人、千秋は知っている?」
私は驚いて首を横に振った。
俊太もやはり見たことがあると感じたのか。
「声は知らないんだけど、顔は見覚えがある気がするんだよな」
俊太が首を捻る。私も小さく頷いて「私も」と言った。
2人で顔を見合わせても、特に何も浮かばない。
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