記憶鮮明

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新しい仕事はなかなか見つからず、簡単に仕事を辞めてしまったことを後悔し始めた頃。 夜中にピンポンピンポンと連打されたチャイムに、何事かと眉をひそめながら玄関のスコープを覗くと、二度と会うことはないと思っていた宮島さんが立っていた。 「何のご用ですか?」 「おまえだろ!? うちの病院に怪文書を送り付けてきたのは!」 凄い剣幕の宮島さんを見て、チェーンをかけておいて良かったと心底思った。 「怪文書? そんなの知りません。私じゃありません」 「院長に浮気がバレて、クビだ。せっかく京美が黙っていてくれたっていうのに」 どうやら京美さんのお父さんが、宮島さんの勤務する病院の院長だったらしい。 「婚約も破棄された。全部おまえのせいだ」 ドアの隙間から手を伸ばしてくる宮島さんには、恐怖しか感じなかった。 「帰って下さい。悪いのはあなたじゃないですか。私を騙して、京美さんを裏切って」 「俺はおまえの色香に惑わされただけだ。俺は悪くない」 ずいぶん勝手な言い分だ。腹が立ったので思いきりドアを閉めた。 宮島さんの手が挟まってケガしても構わない。そう思ったけど、宮島さんは咄嗟に手を抜いてドアはバタンと閉まった。私は震える指で鍵をかけた。 宮島さんはしばらくドアをドンドンと叩いていたけど、やがて諦めて帰っていった。 怪文書なんて知らない。誰がそんなことを? もしかして、店長か翠ちゃんだろうか。2人とも宮島さんの病院がどこか知っていたし。 それより宮島さんが戻ってきたら、どうしよう。 こんな安アパートのチェーンなんて、簡単に切られてしまうだろう。 今夜はもう来なくても、合鍵を返してもらっていないから留守の間に入り込まれるかもしれない。 恐怖で身体が震えだす。居ても立っても居られなくなった私は、バッグを掴むと自分の家を飛び出した。 行く当てなんかない。 恋人も仕事も無くして、帰る場所もなくなった。 とりあえず今夜はネットカフェに泊まるとして、この先はどうすればいいのだろう。
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