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小さな店とは言っても退職にはいろいろ手続きがあって、私は久しぶりに古巣のジュエリーショップを訪れていた。
店長から給与明細をもらい書類の記入も終わったところで、私は気になっていたことを尋ねた。
「あれから無言電話はなくなりましたか?」
「うん。十和ちゃんが辞めて2~3日は続いたけどね。やっぱりあの京美とかいう女だったんだろうね」
店長の言葉に、翠ちゃんが「えー?」と反論するような声を上げた。
「そうですか? 私、宮島さんじゃないかって気もしてきて」
「宮島さん? 何で?」
店長と私の声が揃った。
宮島さんがクビになった今だったら、私に対する嫌がらせで無言電話をかけてくるのもわかる。彼は私が怪文書を送った犯人だと思い込んでいるから。
でも、無言電話が始まったのは、クビになるずっと前のはずだ。
「十和さんが辞めた後、若い男の人が来店されたことがあって、その人が私に訊いたんです。あの髪の長い店員さんは今日は休みなのか、それとももう辞めたのかって」
店長も翠ちゃんも髪は短いから、私のことだ。
「そのときは私、『この人、十和さんのことが好きなのかな』って思っただけだったんだけど、後から思い出したんですよ。その人が宮島さんと話していたってことを」
「え?」
「それにその人に十和さんが辞めたことを話した日から、ピタッと無言電話が来なくなったんです。考えてみたら変でしょ? 十和さんが数日店に出ていないからって、”もう辞めたんですか”なんて。まるで自分が無言電話を掛け続けていて、その成果を確かめに来たみたいじゃないですか」
「だけど、その人が宮島さんの手先だとは限らないわよ。ただぶつかって謝っていただけなのに、話しているように見えたのかも」
思い込みの激しい翠ちゃんに店長が苦笑いを浮かべた。でも、その言葉に何かを思い出したように、翠ちゃんは手を叩いた。
「そうですよ! その人、宮島さんとぶつかったんです。でも、知り合いみたいに話し込んで。その時、十和さんもその人と話していたじゃないですか」
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