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地下鉄に乗って、いつものドアの横に立つと、疲れた自分の顔が窓に映っていた。
翠ちゃんが言っていた”宮島さんの手先”は、どう考えても赤坂くんだ。でも、彼が本当に手先なのだとしたら、私を匿ったりしない。
私に一目惚れしたから、店まで訪ねてきたのだろう。
あれから怪文書のことを店長と翠ちゃんに訊いてみたけど、彼女たちは何も知らなかった。
ということは宮島さんを陥れたのは、京美さんに思いを寄せる男か職場のライバルか。それなのに私が犯人だと誤解されたままだなんて理不尽だ。
赤坂くんの提案通りアパートを引き払って同居させてもらうことにしたから、もう宮島さんに怯える必要はないけど。
赤坂くんの家のドアを開けると、彼はまだ帰っていなかった。
手早く夕食を作っても、まだ帰ってこない。サロンの施術が長引いているのだろう。
手持ち無沙汰になった私は、掃除でもしようかなと思い立った。
「え? これって……」
雑誌を無造作に突っ込んだ紙袋の中に、数枚の写真を見つけた。宮島さんと私がラブホテルから出てきたところを写した写真。
2人の服を見れば、赤坂くんと出会った夜だとわかる。
私たちを尾行したの? それで出てくるまで待って写真を撮って、それを京美さんに送り付けた?
ガラガラと何かが私の中で崩れ落ちた。
すべては赤坂くんの仕業だったの? 京美さんに浮気のことを告げ口したのも無言電話も。おそらく怪文書も。
私が家を飛び出した時にタイミングよく赤坂くんが現れたのも、宮島さんが怒鳴り込むのを確かめるために外で見張っていたから?
「……どうして……」
「十和さんのためだよ」
背後からの静かな声に、思わずヒッと悲鳴を上げた。
「十和さんは僕といるのが幸せなんだ。そのためなら、どんな手だって使うよ」
赤坂くんの長い指が私の首に触れた。
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