地下鉄に乗って

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マンションのエントランスを抜け、オートロックの暗証番号を打ち込んで鍵を差し込む。 すぐに開いた自動ドアを通ってエレベーターに乗った。最上階の8階全部が赤坂くんの居住スペースだ。 サロンは1階のテナントスペースで営業している。お客さんの予約状況によっては、この時間でもまだ施術中という日もある。 ドアを開けると玄関に赤坂くんの大きな革靴があった。 「ただいま」 呟くように言うと、奥からスリッパの足音が近づいてきた。 「おかえり」 こんなやり取りは何だか気恥ずかしい。 「疲れてるみたいだね。十和(とわ)さんは別に働かなくてもいいのに。ずっと家でゆっくりしててくれていいんだよ?」 「そういうわけにはいかないよ。頑張って稼いで食費ぐらいは入れないと悪いもの」 「……そういうこと気にしなくて済む方法があるんだけどな。まあ、いいや。今夜は十和さんの好きなビーフストロガノフだよ。先にシャワーを浴びておいで」 赤坂くんはそう言ったのに、バスルームから出た私を見たら気が変わったようだ。 グッと腰を抱き寄せられて、激しいキスが襲う。 「ね? ビーフストロガノフは?」 「先に十和さんを食べてから」 静かな部屋に2人の息遣いが響く。やがて、それが喘ぎ声に変っていく。 「十和さんの中を僕で埋め尽くしたい」 「もう……赤坂くんでいっぱいだよ?」 赤坂くんは満足そうに微笑むと、その優し気な顔とは真逆の激しさで私を突き上げた。 「あっ! んん……ああ!」 快楽に飲み込まれて、世界が真っ白になっていく。 圧し掛かってきた赤坂くんは荒い呼吸を繰り返しながら、私をギュッと抱きしめた。 こんな幸せなことってあるだろうか。
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