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幸せな夢を見た。
目が覚めて、見慣れた天井のひび割れを睨んで、もう一度目を閉じる。
そして、やけにリアルな夢の甘い余韻に浸った。
夢で何度も何度も見る世界。地図が描けるぐらいに記憶は鮮明だ。
まるでストリートビューのような自分目線で見ている風景。
本当に地下鉄に乗って行って、あの坂を上ったら、あの白いマンションがあったりして。
一度試してみたい気もするけど、現実はいろいろ忙しくて、そんな酔狂なことをしている暇などない。
「それは欲求不満ね」
店長にバッサリと切られて、恥ずかしくなった。
私が訊きたかったのは、夢にだけ出てくる見慣れた場所があるかってことだったのに。
「彼氏以外の男に抱かれて悦んでいる夢なんでしょ? 欲求不満以外の何物でもないじゃない。その相手の男って知り合い?」
「いえ。見たこともない人で」
それなのに、彼の声も匂いも思い出せる。胸がキュンと痛くなって、後ろめたい気持ちになった。
夢で架空の男に抱かれるのは、彼氏に対する裏切りだろうか。
コンコンと店のガラスをノックする音が聞こえて顔を上げると、外に宮島さんが立っていた。
「あっ、ほら、お迎えが来た。今夜は宮島さんにたっぷり可愛がってもらいなさい」
バチッとウインクをした店長に、赤面しながら「お先に上がらせてもらいます」と頭を下げた。
私の職場は、店長と私とバイトの翠ちゃんの3人が働く小さなジュエリーショップだ。
店の前を通りかかった宮島さんが私を見初め交際がスタートしたから、店長も翠ちゃんも私の恋を温かく見守ってくれている。
「お疲れ様でした」
背の高い宮島さんを見上げると、彼はコキッと首を鳴らした。
「うん、疲れた。十和にマッサージしてもらわないとな」
「はい」
「もちろん、俺もあちこち揉んであげるよ」
ニヤニヤした宮島さんはいつものようにラブホテルに向かうつもりなのだろう。
私たちのデートは大抵”それ”だけだ。
医者である宮島さんは忙しい人だからなかなか会えないし、やっと会えても私のアパートに来るか、ラブホテルに直行するだけ。
たまには一緒に食事したり、買い物に行ったりしてみたいなんて思うのは私の我がままなのかな。
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