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いつどこで患者やその家族に見られているかわからない。だから、宮島さんは私と歩くとき、手を繋いだりしない。『うちの父が明日手術だっていうのに、宮島先生は女とイチャイチャしている』なんて思われたくないのだそうだ。
「あっと! すみません!」
角を曲がろうとしたところで宮島さんと正面衝突した男性を見て、私は驚愕した。夢の中のあの人にそっくりだったから。
「いや、こっちこそ」
「あれ? 宮島先輩じゃないですか!」
「赤坂!? 久しぶりだな!」
再会を喜ぶ2人を見ながら、私は混乱していた。
そう。確かにあの人の名前は赤坂だった。
2人が知り合いだということも驚きだけど、名前まで同じだなんて!
そんなことって、あるだろうか。
どこかで赤坂くんの写真と名前を見たことがあって、それが記憶の片隅に残って夢に出てきたということなのかもしれない。
赤坂くんが宮島さんの後ろにいる私に気づいて目を見開いた。
「先輩、こちらの女性は?」
「ああ。紹介するよ。あそこのジュエリーショップで働いてる海野 十和さんだ。こいつは俺の大学の後輩で、赤坂。医学部を出たくせに、リラクゼーションサロンなんかをやってる変わり者だよ」
どういうこと?
私、この人を知っているの? 職業まで夢の中の赤坂くんと一緒だなんて。
「初めまして。良かったら一度サロンに来て下さい」
そんないかにもな社交辞令なんて聞きたくなかった。あなたの口からは。
夕べもあんなに私を求めてくれたのに。あれほど1つに溶け合ったのに。
赤坂くんが差し出した名刺を見ると、サロンの住所はやっぱり『エステート赤坂』。
「いつでもご連絡下さい。お待ちしていますよ、十和さん」
気遣うような優しい眼差しも、夢の赤坂くんとそっくりだった。
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