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目覚めるとラブホテルの赤い壁紙が目に入ってきた。
私……ああ、そうか。宮島さんと愛し合ったんだ。
――赤坂くんと、ではなく。
申し訳ない気分になったのは、夢の中の赤坂くんに対してだった。
「しつこいぞ!」
突然聞こえた声に思わず起き上がった。
宮島さんの姿は見えない。
ガラス張りのバスルームにもいないから、おそらくトイレの中だろう。
「わかってる。……関係ないだろ? おい、赤坂!」
声を潜めて電話していたのに、激昂してつい声を荒げてしまったといった感じだ。
相手はさっき会った赤坂くんみたい。
トイレに籠ってまで私に聞かせたくない話って、一体何だろう。
トイレのドアが開いたので、私は慌てて寝たふりをした。
「十和、起きろ。行くぞ」
「はい」
急いで服を身に着け、ラブホテルを出た。
「じゃあ、また連絡する」
その一言だけで、宮島さんは駅と反対方向へと歩き出した。振り返りもしない。
いつもそう。私を家まで送るどころか、駅までさえも送ってはくれない。
ラブホテルの前に置き去りにされて、零れたのは大きなため息だ。
店長、確かに私は欲求不満なのかも。
身体は満たされても、心がカラカラなんです。
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