記憶鮮明

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平穏な日常が壊れるのなんて、あっという間だった。 「あなたが海野 十和子?」 来店した女性客にいきなりフルネームで呼び捨てにされた。 「十和子ではなく、十和ですが」 「ふーん。写真より美人ね」 「は?」 明らかに敵意を含んだ目が、私の頭のてっぺんから足の先までをジロジロと値踏みする。 「私は和田 京美。宮島 茂の婚約者よ。あのね。私たち、大学時代からの付き合いなの。半年後には結婚するのよ。あなた、自分が何をしたかわかってる?」 「えっ!?」 大声を上げたのは翠ちゃんだった。私は何も言えずに、ただ京美さんの顔を見つめていた。 「茂を誘惑して、浮気させて。私はあなたに慰謝料を請求することも出来るけど、支払い能力なさそうね」 そう言いながら、京美さんはぐるっと店内を見渡した。 「浮気?」 その一言だけが霞のかかったような私の心に引っかかった。 「そうよ。あなたはただの浮気相手。本気で愛されてるとでも思った? もう二度と茂に会わないで。今、この場で茂の連絡先を削除して。履歴も全部」 ノロノロとスマホを差し出すと、ひったくるようにした京美さんは宮島さんと私の繋がりをすべて消した。
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