記憶鮮明

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「十和さん、大丈夫だよ。嫌な夢を見ただけだ」 夢の中で赤坂くんが優しく囁いたのを覚えている。 嘘つき。あなたの方が夢のくせに。 夢の世界はあんなに安らかで甘美なのに、現実はどうしてこんなに辛いんだろう。 店長と翠ちゃんは宮島さんの悪口を言っては、私を慰めてくれた。 それなのに、私は2人に迷惑をかけている。 さっきから店の電話が鳴りやまない。 出ると、すぐに切られる。そして、すぐにまた掛かってくる。 「あの京美っていう女の嫌がらせですよ、きっと」 翠ちゃんが棚卸をしている店長に話しかけた。その言葉を遮るように、また電話が鳴り出す。 そんなことが続けば、お客様が不審に思うのも当然だ。客足がめっきり減ってしまった。 耐えられなくなって私が店を辞めたのは、京美さんの思う壺だったかもしれない。
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