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そっと鼻をつまみ耳から空気を追い出すと、耳の中が水で満たされていく。その心地好い音と温度を感じながら、益々濃い青を目指して。
珊瑚の森の上を飛ぶと、イソギンチャクが挨拶するように揺れる。
僕のつくった水流で珊瑚から離れてしまった宝石のようなウミウシをそっと戻すと、沢山の住人が一斉に飛び出した。
心拍数の乱れは酸素の消費を早める。
だけど――多くの命が生きる中で一際優雅な姿に一瞬にして鼓動が跳ね、口から大量の酸素が逃げ出してしまう。
そこいるのは、僕の好きな人。
……僕の泳ぎはなんて下手なんだろう。この子を見ているとそう思ってしまう。
初めて出会った日に恋に落ち、次の日から僕は毎日スイミングスクールに通っている。
自分より早く泳ぐことが出来たら、僕の彼女になってくれると言ってくれたから。
きっとその頃には僕は――オリンピックの水泳種目を全制覇していることだろう。
人間と魚の半分の、人魚。
僕の好きな人は、世界一美しい。
泳げ、僕。もっともっと早く。
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