5. 満月

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大学を卒業するとき、社会人になるわけだし引っ越しをしようかとも考えた。でも結局、更新料を払って学生時代と同じアパートで暮らしている。 スーパーや理髪店など馴染みの店を変えるのが面倒だったのと、川沿いのジョギングコースを気に入っているからだ。 「リバーサイド」というラブホテルのような名前のとおり、俺の住むアパートは川沿いにある。 * 五十川さんと仲良くなりたい発言をしたことで、奈美枝さんからは面白がられ、社長と根津さんからは生温かい視線を向けられた。 ただ、当の五十川さんが我関せずといった風だから三日も経てばそれ以前と変わらない日々となった。 五十川さんは相変わらずベティを連れて営業に出かけ、俺は少しずつ仕事を覚えていった。 あの朝、「仕事以外のことを話しかけるな」と言われ、数日はどう接してよいか悩んだものの、仕事のことであれば話しかけてもいいと解釈すれば開き直ることができた。 五十川さんも最初は話しかけるたびに微妙な表情をしていたが、俺が仕事のことしか聞くつもりがないらしいと理解するとしだいに露骨な警戒はしなくなった。 だから、電話の取り方とか、メールの送り方とか、些細なことでもなんでも聞いた。
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