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四月は新しい生活に慣れることだけで終わった。五月も覚えたての仕事に追われているうちに過ぎ、気づけば雨の気配がする季節になっていた。
「それでは、校正はこれで完了ということで承知しました」
「月曜の夕方にはチラシ欲しいんだけど、間に合うかな」
「印刷部数がこれくらいならどうにか間に合うと思います…十七時くらいになるかもしれませんが、それでもよろしいでしょうか?」
「いいよいいよ。毎回、無理を言って申し訳ない」
「とんでもないです、いつもありがとうございます」
「弥田くんも慣れてきたね、」
商工会議所の宮本さんは社長と同級生らしく馬場印刷のお得意様だ。
地元じゃないから、こうして顔馴染みが増えていくことが嬉しい。
「ビアガーデンも解禁になったしさ、今度飲みに行こうよ」
「ぜひ!よろしくお願いします」
「馬場に声かけとくな」
肉厚な手でばしばしと肩を叩かれる。こういう対応をされるたび、五十川さんはどうしているんだろうと不思議に思った。
愛想の良いことを言うなんて想像がつかない。
宮本さんから預かった原稿のデータを根津さんに渡して今週の仕事は終わりだった。伸びをしたい気持ちを抑え、俺は営業車に乗り込んだ。
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