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眉間にしわを寄せた五十川さんを笑顔でごまかし背を向ける。
…不自然じゃないよな。大丈夫、大丈夫。
間を置かず聞こえたプルタブを開ける音に、にやついている自分がいた。
*
浮ついた気分で暮れていく町を自転車で進む。
M市は西から東へ一級河川が流れていた。河口付近は工場地帯となっていて、我が城「リバーサイド」は工場と住宅地の境目にあった。
自動車のテールランプが目立つくらい夜が迫った頃、川沿いのジョギングコースに着く。町の喧騒は遠退き、俺は川音を聞きながらペダルを漕いだ。
ふと、進行方向の東の空に明るいものを見つける。川にかかった橋の上にぽっかりと浮かんでいるのは、怖いくらいの大きな満月だった。
思わず自転車を止め、見惚れてしまう。
こんなに見事な満月なのに、橋を渡る人たちは誰も気づいている様子がない。
川沿いを行く人も平然と俺を追い越していく。
この発見を誰かと共有したいと思った。
…五十川さんに言ったら、なんて答えるだろう。
個人的な話を聞くわけじゃないから怒りはしないかな。でも仕事の話ではないから、微妙な表情をするかもしれない。
五十川さんの仏頂面を思い浮かべている間に月はするすると空を登り、いつもの大きさになってしまった。
…
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