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「どうしたんですか?」
「あ…いや…今、帰ってきたのか?」
「はい」
「誰かとすれ違ったりは?」
「すれ違う?…印刷所で根津さんに声をかけてから戻ったんですけど誰ともすれ違いませんでしたよ?」
「…そうか」
普通じゃない。五十川さんの細い指は俺のシャツを掴んだままだ。
不安そうな肩に手を置く。
「何かあったんですか?」
「……どろぼう」
俯いて発せられた声はやっと聞こえるくらいだった。
「泥棒?!」
「っグループホームのパンフレットにミスが見つかって、それで、急いで根津さんに印刷機止めてもらうよう伝えに行って、なんだかんだしゃべって、十分くらい事務所を空けてたんだ」
「誰もいなかったんですか?」
「誰もいなかった。今日は奈美枝さんがいないから社長が娘の保育園の迎えに行ってて、そのまま帰るって五時前に出てったから」
そうだった。奈美枝さんの実父が骨折したらしく様子を見に行くと言っていた。
「不在の隙に空き巣に入られたってことですか?!荒らされてたり、なにか盗まれてるんですか!」
「荒されてはないが…ベティが、盗まれた!」
…え?
「泥棒じゃなきゃ、なんだ?神隠しか?…自分で歩いて出て行ったとか?」
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