7. 紛失

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「まず、うちに来い。場所は会社の裏手だ。門灯はつけておく」 「は?今からですか?」 「緊急事態だ。弥田は五十川と仲良くなりたいんだろ、人助けだから」 「五十川さんが関係してるんですか?」 「まあ、説明するのも面倒だから早く来い」 「えっ!ちょっ、と…」 言いたいことだけ言って通話は切れた。 …え?えええ!? 緊急事態という言葉と、五十川さんの帰り際の様子を思い出して、スウェットによれたTシャツのまま着替えもせずに自転車に乗っていた。 湿度の高い夜で空気が重い。 汗がまとわりつく、息が苦しい。 社長の家はすぐにわかった。呼び鈴を鳴らすと、しばらくして「早かったな」とドアが開く。 「な、なにごとですかぁ」 「これ」、と目の前に差し出されたのはクマのぬいぐるみ。 「っベティ?!」 「夕方、事務所に寄った時に娘が勝手に持って帰ってきたみたいなんだ。娘もう寝てるし、今夜は奈美枝もいないから俺が持ってくこともできねえし。電話かけても五十川出ねえし」 「持って行けと?」 「ここまで来たんだ行ってくれるよな?いやぁ、見たことのあるクマだなぁとは思ってたんだけど、まさかと思うだろ」 「そう、ですね」 はじめて触れたクマは思った以上にふわふわで、これが精神安定剤になる理由もわかる気がした。
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