404人が本棚に入れています
本棚に追加
「まず、うちに来い。場所は会社の裏手だ。門灯はつけておく」
「は?今からですか?」
「緊急事態だ。弥田は五十川と仲良くなりたいんだろ、人助けだから」
「五十川さんが関係してるんですか?」
「まあ、説明するのも面倒だから早く来い」
「えっ!ちょっ、と…」
言いたいことだけ言って通話は切れた。
…え?えええ!?
緊急事態という言葉と、五十川さんの帰り際の様子を思い出して、スウェットによれたTシャツのまま着替えもせずに自転車に乗っていた。
湿度の高い夜で空気が重い。
汗がまとわりつく、息が苦しい。
社長の家はすぐにわかった。呼び鈴を鳴らすと、しばらくして「早かったな」とドアが開く。
「な、なにごとですかぁ」
「これ」、と目の前に差し出されたのはクマのぬいぐるみ。
「っベティ?!」
「夕方、事務所に寄った時に娘が勝手に持って帰ってきたみたいなんだ。娘もう寝てるし、今夜は奈美枝もいないから俺が持ってくこともできねえし。電話かけても五十川出ねえし」
「持って行けと?」
「ここまで来たんだ行ってくれるよな?いやぁ、見たことのあるクマだなぁとは思ってたんだけど、まさかと思うだろ」
「そう、ですね」
はじめて触れたクマは思った以上にふわふわで、これが精神安定剤になる理由もわかる気がした。
最初のコメントを投稿しよう!