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どこか所在無さげなベティを紙袋に入れてハンドルにかける。
マンションに向かいながら、会社用の携帯電話と社長から教えてもらった私用の番号を交互に鳴らしてみたが留守番電話に切り替わるばかりだった。
…寝てるのかもな。
ベティを早く返してあげたいが、すでに寝ているのなら逆に今の時間は迷惑なんじゃないかとも思う。
「絶対、困ってるから」と社長は断言していたが、深夜に自宅に来られるほうが困るに違いない。
ペダルを漕ぐ足がためらいがちになる。
どうしたものかと迷っているうちにマンションに着いてしまい、来てしまったなら、怒られることを覚悟しようと腹をくくった。
歓迎会後のにがい記憶のある部屋の前に立ち、控えめに呼び鈴を鳴らす。反応はない。
もう一度鳴らそうか、帰ろうか、ぐずぐずしていると、ガチャリとドアが音を立てた。
「なんだよ」
「夜分にすみません…」
紙袋からベティを取り出す。五十川さんの視線が釘付けになる。お互いに何も言わなかった。
俺が差し出すと壊れやすいものかのようにそっと受け取った。その仕草で、どれだけベティを大切にしているのか分かる。
「社長の娘さんが持って帰ってたそうです」
五十川さんが急にしゃがみこむから、俺は慌ててドアを支えた。
絞り出すように、「よかった」と言うのを聞いて、社長の言うとおり持って来て良かったと思った。
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