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…好きって、別に。特別な意味じゃない。だって、五十川さんは男だし。気になるのは、少し変わった人だから。だから、好きかもしれないけど、違う。
午前中、「違う」を念仏のように唱えて過ごした。その効果か、帰ってきた五十川さんから、「飯行くぞ」と声をかけられても平常心でいられた。
…ほ、ほら。いつも通り!
外は弱く雨が降っていた。
傘を片手に持ち、ベティが濡れないよう胸元に抱く五十川さんにそわそわする。
「歩いていける距離なんですか?」
「あぁ」
俺の通勤経路とは反対側の道を並んで進んでいく。
「いつも食べに行ってるんですか?」
「だいたい。弥田は?今までどうしてた?」
「コンビニですね。この辺りに店があるって知らなかったんで」
「コンビニ飽きるだろ。見えた、あそこ」
会社から五分ほどの距離にその食堂はあった。「蛤食堂」という暖簾が出ていても素通りしてしまいそうな地味さだ。
軒下で傘をたたみ、「…へび?食堂ですか?」と尋ねる。五十川さんは素っ気なく「はまぐり」と応えて暖簾をくぐった。
外観とは違って店の中は繁盛している。
「いらっしゃーい、空いてる席へどうぞ」
座敷席と椅子席が半々の店内は、ほぼ満席だ。
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