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信じられないことに、五十川さんは取引先との話し合いの場にもクマのぬいぐるみを持って行った。
俺はもう、名刺を渡すのも名前も名乗るのもどぎまぎしてしまって仕事に集中できない。
さらに驚いたのは、誰一人としてクマについて話題にしないことだった。
…もしかして、俺にしか見えてないのか?
「まさかな」と「いやでも」を胸の内で何度も繰り返す。
五十川さんは魔術でも使えるのか…言われてみれば、使えるように見えなくもない。
じゃあ、その魔術を見破っている俺はどうなる?
…殺され、
「おい」
突然、肩に手を置かれる。びっくりしすぎて「ひゃい」と声が裏返った。
「なんだその返事、相変わらずアホ丸出しだな」
「馬場さーん、驚かさないでくださいよ!」
「社長と呼べ、社長と」
「あ、すみませんっ」
馬場さんは大学剣道のOBで、就職というか将来について考えてなかった俺に「ウチにこい」と言ってくれた人だ。
ーー 回想 (社長談)
就職先まだ決まってないなら、ウチくるか?
親から会社継いだばっかでさ、人雇いたくても人事担当なんていねぇし、めんどくせーなどーすっかなって思ってたんだ。
弥田は謝るの上手いからな!嫌味がないし!
ウチは地域に密着した小せえ会社だからさ、人当たりの良さが無きゃ仕事になんねえんだよ。
今、思いつきで声かけたけど、すげー先見の明な気がしてきた!
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