朝に、はじまる

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「いや、そりゃそうだろ」 「え、だって。お隣だよ? すぐじゃん。スケートの日程、今のところ、対局ないよね?」  いつの間に調べたんだ。思わず狼狽えて、葵は「いや、だって」と首をふる。 「チケットとか」 「それは俺がどうにかする。……って言ったら」  伺うような上目遣い。う、と、葵は思わず小さく詰まった。我儘を言われてみたい、と、想った自分を呪った。いやだってこんなの。 「……会場で。俺のこと、応援してくれる?」  どう考えても、逆らえない。葵が小さく頷くと、竜一はぱあっと、光が射したみたいに笑った。嬉しい、とにこにこする彼のためならなんでもできると思う。  葵も竜一も、ひとりきりでさみしい盤上で、とほうもなく孤独に戦うけれど。  それでも、あのつめたい盤の上で、竜一が葵を思い出せばいいと思う。竜一のことを思い出したいと思う。  それぞれの盤上(ばしょ)で戦っているお互いのことを、思い出せたらいいと思うのだ。 「葵」  竜一が、手を差し出す。葵はその、葵のものより少し小さい掌を握った。つめたい掌が、徐々にあたたまっていくのを感じる。 「俺、きっと勝つよ。一番いい色のメダルを獲る」     
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