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地下鉄に乗って、私は通勤している。
帰りはいつも遅く、深夜に差し掛かる。終電間近が、いつもの日常。
そんな中、ほとんど私しか乗っていないだろう電車の中に、“彼”はいた。
彼は帰り道によく出会う。
話すわけでもないし、ばったり会って会話を交わした事もない。そもそも、彼の顔を間近で見た事すらない。前髪で隠れているから、表情は見えない。
私は“彼”の事を何も知らないようだ。容姿以外。
ある日、地下鉄に乗って家へと向かう途中、彼とばったり会った。
「……」
彼は何も言わずに私の横を通り過ぎ、いつもと同じ位置に長椅子に座った。
私は彼の真正面に座る。
私は彼に変化が無いかを探っていた。
彼の真正面に座った事なんて無かった。
どんな表情を見せるのか、――そもそも人間なのか、私は不思議でならなかった。
深夜近い時間に、それに電車の中、少なくとも私のいる車両の中では二人きり。待ってる間も、人の気配はほぼしない状態だった。
待ってる間、彼はいつも隣の方にいた。
光が見えてきた。
電車が地上へ出るのだろう。
私は少しばかりの好奇心、そして期待と恐怖を背負っていた。
地上へ出た。
彼の姿は――誰も見ていなかった。
私は真正面に座っていたはずなのに、彼が立ち去った形跡はないし、見てもいない。
じゃあ、彼はどこへ?――
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