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その言葉は、ホームに立っているサラリーマンにも聞こえているはずだった。あ、季節外れの黒スーツだからもしかすると就活生だったのかもしれないな。
青い顔でニセテツの入り口を見つめてるんだよ。
俺は、「あ」って声に出した。
「〝おさがりくださーい〟」
アナウンスははっきりと言ってるのに就活生の体はゆらゆらと黄色い線の上で揺れている。まるで、足を踏み出そうか迷っているみたいに。
「今日みたいな連休明けは、多いんですよ」
俺と違って小町ちゃんは就活生に目もくれない。慣れきっている、って顔をしていた。
「あの人、多分ダメですね」
「人肉にされるってことか…!?」
色の白い中学生はゆっくりと首を振ったよ。
「いいえ。そもそもニセテツが〝視えて〟いません」
その通りだった。
落とし穴にでも落ちるように就活生の姿はニセテツの床下に消えた。代わりに音漏れするヘッドフォンをつけた男が錆色の車両に足を踏み入れて行ったよ。
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