予期せぬ挨拶

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予期せぬ挨拶

「ねぇ。ヒロシ。今度宅に来てよ」 助手席の真理子は高速ランプを通過すると、コンパクトで先程入念に仕上げた口紅を再度間違いはないかチェックした。 神戸の一流ホテルを出た車はナトリウム灯の波に乗って緩やかな湾岸線を快走する。 まだ明るい高層街のネオンが二人の表情を捉える。 「いいけど。まだ早いんじゃない。俺たち付き合って1年だぜ」「パパが早く連れて来いってうるさいのよ」「・・・」 真理子の家庭は厳格なことで知られている。そんな宅に行くのか・・・ヒロシは気が重かった。しかし、真理子はいい女だ。気が利くし、聡明だ。それに体の相性も抜群だ。俄かに先刻のことを思い出す。 「わかった。今度の日曜日に行くよ」 そう言うと徐にシフトダウンし邪魔だった銀のポルシェ911を一気に追い抜いた。
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