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次に私の意識が覚醒したとき、そこはもう何やら神々しい場所だった。
「私は、どうした?ここは、どこ?」
「ここは、天国への入り口じゃな」
後ろからしわがれた声がして、振り返るとそこには、先ほど電車で膝をお借りした、頭部が少し薄目なおじさまそっくりだけれど、どこか神々しく人間のそれとは違うようなおじさまがいた。
「えっと、あなたは?」
「わしは、天国への案内人。下級の神じゃ」
神にも位があるのか?いや、それよりも。
「あの、なぜわたしはこんなところにいるのでしょうか?」
「説明しよう。君は、自ら線路へと飛び出した結果、電車の顔面とにらめっこの末、電車に頭突きをくらい、木っ端みじんになった」
「私は死んだ?」
案内人のおじさまはこくりと頷いた。
そして私はここにきて、手紙のことを思い出す。手紙の主よ、忠告するのであれば、【地下鉄に乗ると、電車に頭突きされて死ぬ】とか、書け。死ぬ寸前まで手紙に振り回され、死んだ後もなお手紙に不満をぶつけるとはなんだかなー。
「あの、つかぬことをお伺いしますが、あなたは神?である身に関わらず現世にいたりするのでしょうか?」 「はっはっ。それはないよ。しかし、人間というのは一つの世界で構築されているわけではない。生きていく中で様々な選択肢が訪れ、いずれかの選択をしていく。その選択により分岐が生じ複数の世界が生じる。例えば、君が朝見た手紙を信じ地下鉄に乗らなかったら、運命は変わるであろう」
「いわゆる、パラレルワールド的なやつでしょうか?」
「現世ではそう言われていたかな。だから、私のそっくりさんを見たというならそれは分岐を辿り辿り、今現世で生きているわしなのかもしれん」
「では、私は死んだけれど、まだ私が存在する世界はあるということ?」
「その通り。君は今朝、手紙を見ただろう?あれは先に逝った、別の君から届いたもの。同じ時間軸で動いているとは限らないからね。過去の君に手紙をここから送ったのだ」
そういうことだったのか。だから、あんなに字が似ていたのか。
「さて、私は案内人だ。君の運命はまだ終わってはいない。この先に行く運命もある。どうする?君自身は終わってしまうけれど、どこか違う世界の君を助けたくはないか?運命は自分で決めるものだ。君が自分を助けるのだ。そのチャンスを――」
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