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「こんばんは。初めまして。
僕はPartner provisionの派遣担当、落谷と申します。
未乃さん、ひとりの生活は寂しくないですか?
ドアも5日目の訪問にしてやっと開けてくれたぐらいだし、このままだと本当にひとりになってしまいますよ?」
未乃はドアを開けたことを後悔した。
謎の男の容姿は不気味なものだったからだ。
真っ黒なスーツに派手な紫色のネクタイ。
髪は綺麗に整えられ、黒い瞳には深く深く吸い込まれそうだった。
「未乃さん、ドアを開けたこと、後悔してますね?
はははっ、残念ですが、僕には分かるんですよ」
未乃は唇をぎゅっと噛み締めた。
「本当のひとりって、なんだか分かりますか?
誰にも知られていなくて誰にも相手にされなくて独りぼっちになってしまう事…じゃないんですよ。
自分で自分を殺すことなんです」
未乃はずっとひとりだった。
物心ついた頃、両親は未乃の傍にはいなかった。
どこへ行ってしまったのかは知らない。
親戚らしいおばさんに育てられたけど、お母さんだと思った日は一日もなかった。
そんな薄っぺらい関係。
おばさんに両親の行方を聞くことはなかった。
だって、私を捨てて、置いていったならその事実を本物にしたくないから。
愛を知らない未乃は学校でもひとりだった。
周りの人達は未乃を空気みたいに扱った。
先生は未乃を見ても目を逸らして背を向けた。
学生時代、青春時代…そんなものはなかった。
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