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真新しい制服は少しだけ大きかった。女の子だけどすぐにちょうどよくなると母に言われたからだ。
席について数分後、これから担任になるだろう教師が教壇にあがる。白髪が目立つ初老の教師だった。人が良さそうで、アキホは胸を撫で下ろした。
小学校の頃から塾通いで、中学校に入ってもやっていける自信があった。塾内でも成績は上の方をキープしてきた。だから、大丈夫だ。
ひとりひとり立ち上がり、自己紹介をすることになった。目立つことは苦手だが、自分の長所や短所を説明するのは得意だった。
趣味は読書と映画鑑賞。好きな食べ物はオムライスだと言った。
後ろの席の人が自己紹介を始めた。驚いたことに、その人も読書と映画鑑賞が趣味だった。
この人とならば友達になれる。きっといい友達になれる。直感だったが、そう思うと頬が緩んだ。
一通り自己紹介が終わると、教室内は少しだけ騒がしくなった。少し前まで小学生だったのだ、それも仕方がないだろう。
「ねえ、好きな作家とかいるの?」
と、後ろから声を掛けられた。振り向けば、彼女と目が合った。
目は小さく、鼻は高い。唇は厚くて顎が細い。少しだけ頬骨が張っていて、嬉しそうな顔が可愛らしいと思った。
「鵜目川、黒悟、とか?」
「鵜目川先生の作品読むんだ。私も好きなの。加賀ぼたん先生とかは?」
「加賀先生も好きだよ」
やっぱりだと、胸を抑えた。間違いなく親友になれると確信した。
想像する。中学、高校、大学と彼女と一緒の未来だ。
就職しても結婚しても、会う時間が減っても友人であり続けたいと思う、そんな人と出会えたような気がした。
「私、アキホ」
「私はユイ。これからよろしくね」
差し出された手を握った。柔らかく、温かかった。
楽しい未来を想像するだけで、これからの学校生活が明るくなっていく。
どんな困難があっても乗り切れるような、そんな気がしていた。
その未来を想像させたのがユイであり、大きな困難の原因がユイであった場合のことなど微塵も考えなかった。
こうして、アキホの中学校生活がスタートした。
了
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