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「ねえ知ってる? 午前三時三十三分三十三秒に美常駅に行くと電車に乗れるって話」  ことの発端は、友人の友人であるミワの一言だった。  元々、アキホはユイと遊ぶ予定だった。高校に上がって別々の進学校に進んだ二人は久しぶりに遊ぶ約束をした。  そこに現れたのがミワだ。  茶色く染めた髪の毛は少しだけウェーブがかかっていた。化粧も濃く、短いスカートとパステルカラーのキャミソールを着こなしている。自分やユイとは少し毛色が違うタイプだというのはすぐにわかった。  この辺では名の知れた進学校に通い、品行方正を絵に描いたような生活を送るアキホとユイ。それとは対照的に、ミワは男連れで朝まで遊び歩くような女子だった。  アキホにとっては「まだ知らない世界」をミワは知っていた。  髪の毛や化粧に金をかけ、ブランド物の財布やバッグを持ち歩く。髪を弄ぶしぐさから脚を組み替えるしぐさまで、大人の女性のように見えていた。  それに引き換え自分はどうだ。膝を隠す紺色のスカート、白いブラウスと花柄のカーディガン。髪の毛は特に手入れもしていないロングストレート。  近くにいて喋っていると、なんだか自分のことが恥ずかしくなってきてしまう。 「ミワちゃんって美人だよね」  アキホがそんなことを言った。  ファーストフード店の二階、壁際の席に座ってすぐのことだった。 「なに言ってんの? アキホだって十分可愛いって」 「うん、そのままでも十分」  思わず、頬を両手で抑えた。 「それ以上可愛くなりたいんならやっぱり化粧しかないよね」 「そういうものなの? 今も一応化粧はしてるけど」 「眉毛描いて、ファンデ当てて、チーク乗っけてるだけでしょ? 違う違う、そうじゃないよ」  そこからミワによる化粧講座が始まった。化粧のことだけじゃない。洋服やブランド物についての知識も教えてもらった。そういう含蓄が増えていくだけで、なんだかミワに近付いたような気がした。同性に対しての初めての憧れを抱いた。  いろいろな会話をしていくうちに、流行っている遊びを教えてもらった。それが「午前三時三十三分三十三秒に美常駅に行くと電車に乗れる」という話だった。 「その電車に乗ると過去に戻れる。自分がやり直したい過去に、自分の意識を飛ばしてくれるんだとか」
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