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「私もこの前行ったよ。怖かったけど入っちゃえば気にならないし。奥にある電車の中を写真を撮ってみんなに見せたら驚いてた」 「明日は日曜日だし今日あたりに行ってみたら?」 「静かに家を出れば問題ないと思うよ」  二人に促されて思わず頷いてしまった。  が、すべて二人のせいというわけではなかった。少なからず日常ではない別の場所に憧れていた部分もあった。  深夜に家を出るなんて、自分の周りでやっている人はいない。だからこそ、ミワとユイが楽しそうに見えて仕方がなかった。自分の周りにいる学生はみな、勉強に青春を費やし、塾を第二の家として、家族の言うことを忠実にきく人たちばかりだったから。それが当然だと思っていたから。  ミワたちと別れて家路についた。帰り際に、小さめの懐中電灯を買った。  風呂に入り、夕飯を食べて、テレビを見た。妹、父、母の順に就寝した。その間もずっと考え続けていた。考えながらも、怯えていた。  本当にこれでいいんだろうか。私はなにをしようとしてるんだろうか。  同時に、高揚していた。これから未知の世界へ行こうとしている。背徳的な行動に胸が高鳴っていた。  時間までは読書をして時間を潰した。  文庫本を一冊読み終わったところで時間になった。すでに出かける準備はできていたので、カバンを持って部屋を出た。  忍び足で階段を下り、逐一両親の部屋の物音に気を配った。  廊下を抜けて玄関へ。三時に家を出て、五時前に戻ってくれば問題ないはずだ。母も父も六時をすぎなければ起きてこない。  ドアを閉めて鍵をかけた。足音を立てないように、数百メートルほど歩いた。そこからは少しだけ早歩きになった。  急がなくても目的地には時間通りにつくはずだ。それなのに、アキホは安心できなかった。  彼女の後ろを追ってきているのは両親ではない。背徳感と、緊張感だった。背中に張り付くようにして追ってくるそれらを振り払うように、彼女は脚はを動かしけた。    地下鉄の入り口はボロボロで、屋根も階段もほころびが目立つ。タイルが剥がれている場所も多く、内側のコンクリートさえも崩れかけていた。
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