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 入り口の前は黄色いテープが張られていた。跨いで超えられないほどではなかった。  カバンから懐中電灯を取り出した。電池は入れてある。カチッとスイッチを入れて、階段の下を照らした。  ゴクリと、ツバを呑み込んだ。  この先に進めばミワとも会話ができる。  左手で右腕を掴む。強く握り締め、小さく息を吐いた。 「よし」  黄色いテープを跨ぎ、一段だけ階段を降りる。懐中電灯の光もまた一歩前に進んだ。  地下から風が吹いてきた。生暖かく、背筋がゾワッとする。いくら暑い季節といっても、こんな夜までこんなにも生暖かい風は初めてだった。  階段を踏み込むたびに、割れたタイルがパキリパキリと鳴った。それがまた恐怖心を煽った。  階段が終わり、深呼吸をした。額の汗をハンカチで拭う。  アキホが電車を利用する頃には、美常駅はすでになくなっていた。だから地下鉄の構造はわからない。  懐中電灯で周囲を照らす。案内板のような物もなければ料金表などもなかった。すべて外されて、その部分だけ白くなっている。  心なしだが恐怖心がなくなってきているような気がした。  懐中電灯で、より遠くまで照らしてみる。駅構内の壁もところどころ剥がれていた。不良のたまり場にでもなっていたのか、スプレーでいろんな文字が書かれていた。  不良のたまり場になっているかもしれない。そんな思考を首を振って取り払った。  周囲を警戒し、周辺に光を当てながら券売機の前を通り抜けた。  ほどなくして改札が見えてきた。自動改札は開け放たれており、電気が通っている様子もない。  また、生暖かい風が吹いてきた。  この風が吹くと、どうしようもないくらいに鳥肌が立つ。それが少しだけ不愉快だった。  スマフォを取り出して自動改札の写真を撮った。その位置から券売機なども撮っておいた。  自動改札を抜けて更に奥へ。地面がキラキラと光っていた。ガラス瓶の破片が散らばっていた。  ホラー的な怖さとはまた違った恐怖を想像してしまった。素行がよくない人たちが潜んでいたらどうしよう。そういう思考が頭の中を侵食していった。
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