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地下への階段を降りた。入り口よりも階段は短かった。
ようやく目的地までやってきた。プラットホームは妙な圧迫感があった。それは、目の前に電車があるのが原因だろう。
塗装がボロボロになった、古臭い電車だった。
「そういえばユイも言ってたっけ……」
「奥にある電車の中を写真で撮ってみんなに見せたら驚いてた」という言葉を思い出した。
その言葉を思い出してすぐ、別の考えが割り込んでくる。廃駅に電車がある。こんなことがあり得るだろうかと、ふと疑問が湧いて出てきたのだ。
ここが終点でもないのに使われていた電車があるのはおかしい。しかし実際にここにあるのだ。
今度はミワの言葉を思い出す。「その電車に乗ると過去に戻れる」という言葉だ。
「やり直したい過去、か」
特に考えつかない。戻りたいというほど後悔するような過去がないのだ。
そう考え始めると、都市伝説のような「過去に戻れる」という事象に対して興味がわかなくなっていた。
三時三十三分三十三秒。だが、変化などは訪れなかった。
安堵に似たため息を吐き、足を動かした。
一歩、電車の中に乗ってしまえばどうということはなかった。
運転席まで行き、写真を撮った。これで自分も彼女たちの会話に混ざれる。そう思っただけで気分がよくなっていった。
時刻は四時過ぎ。すぐに帰れば両親が起きる前に戻れるだろう。
スマフォを仕舞い、早歩きでホームをあとにした。来た時と同様にガラス片を避け、改札を抜けた。
入り口の階段を登りながら、アキホはなんとも言えない気持ちに苛まれていた。
両親に逆らったことがない自分。深夜に出かけたことがない自分。心霊スポットのような場所に一人で赴いた自分。今までの自分とはかけ離れた行動に胸が高鳴っていた。だが、済んでしまえばなんということはない。ドキドキやワクワクなどはもうなくなってしまった。
今日は帰って寝よう。そして、起きたらユイとミワに写真を送ろう。それだけが唯一の楽しみだった。
階段を登りきって黄色いテープを跨ぐ。陽の光が少しずつ、山から出てくるところだった。
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