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悲しいという気持ちは当然ある。が、それ以上に怒りの方が大きかった。
笑われた。裏切られた。馬鹿にされた。親友だと思っていた、一番の友達に裏切られた。
善い行いをしていればきっと報われる。まっとうな生き方をしていれば、まっとうな人が寄ってくる。そう教えられたから真面目に生きようと努力してきた。その生き方そのものを馬鹿にされたことが腹立たしくて仕方がなかった。
破れそうなほどにシーツを掴んだ。掴んだシーツは、いつの間にか涙で濡れていた。
走ってきたということ、心に大きなキズが出来たこと、それに泣いたこと。それらが重なったせいかアキホは眠ってしまった。
彼女が起きた時、外は深い蒼に染まっていた。
起きてもなお、怒りも悲しみも消えなかった。自分ではこの感情をどうすることもできない。
壁掛け時計に目を向けた。時刻は午前三時過ぎ。こんな時間まで寝てしまったという気持ちと、もう一つ別の気持ちが芽生えていることに気がついた。
あり得ない。そんなことをしても意味なんてない。けれど、心のどこかで期待してしまっている。
細く長く息を吐き、懐中電灯と家の鍵を手に部屋を出た。
静かに家を出て走り出す。ただひたすらに目的地を目指した。
十分とちょっと、ほぼ全力疾走だった。そのせいで立ち止まってもなかなか息が整えられない。目の前にある黄色いテープを見てツバを呑み込んだ。
ありもしない都市伝説。彼女たちの戯言。そんなことはわかっている。でも、あの時吹いた生暖かい風と、それに伴う寒気には、言葉では表現できないなにかを感じた。
なにかあるのだと自分に言い聞かせた。
黄色いテープを乗り越えた。
懐中電灯で照らしながら、券売機と自動改札を通り抜けた。ガラス片など気にならなかった。大きなガラス片を知らずに蹴って、暗闇に甲高い音が木霊した。
立ち止まることなどせず一気に駆け下りた。
勢いよくホームに飛び降りり、顔を上げて前を見た。そこは、アキホが知っている美常駅ではなかった。
「電車が、ない……」
懐中電灯でホームを照らす。がらんどうという言葉が合う光景だった。
「はははっ……」
乾いた笑いが漏れる。当然だ、この結末だって予測していた。それでも縋った。なにか起これと懇願した。
誰に懇願したのか。神か、仏か、あるいは――。
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