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 遠くで、金属同士がすり合うような音がした。同時に生暖かい風が拭いた。風に揺れる髪の毛を抑えながら、金属音がした方を見た。昨日電車があったレールの右側だ。  光が見えた。徐々に光量が強くなっていく。嘘だと思う反面、あの時感じた「なにか」が間違っていなかったのだと血が騒いだ。  こちらに来るまで見つめていた。先頭車両が見えて、一両、二両、三両編成だった。  キーっという音をさせて目の前で停止した。車内はとても明るかった。車両自体は昨日見たものと変わらない。剥げた塗装に錆も目立つ。窓越しに見えるシートは、綺麗だとは決して言えなかった。ほつれ、破け、スポンジがはみ出していた。  ドアが開いた。  息が荒くなっていく。これに乗っていいのか、と自分に問いただす。本当にいいのか。都市伝説が事実なら過去に戻れる。じゃあもし戻れるとしたらどこに戻る。 「決まってる。あの日だ、中学校に入ってすぐ。ユイと出会ったあの日に戻ってやり直す。この地下鉄に乗って、過去へ」  強く目蓋を閉じ、右足を踏み出した。  右足に地面の感触。夢じゃないと、目を開けた。そして、残りの半身も電車の中に滑り込ませた。  ドアが閉まった。警笛もなく、電車はゆっくりと動き出す。  よろよろと、近くのイスに座って外を見た。光なんてどこにもない。窓の外は真っ暗で、まるで闇に飛び込んでいくようだとさえ思えた。  背もたれに体重をかけると眠気が一気にやってきた。作られた都市伝説なんて嘘だった。こんな便利なものがあるのなら、何度でも過去をやり直せる。嫌なことから逃げ続けることができる。  考えているうちに身体が重くなってきた。心地よい重さだと、やってきた微睡みに全てをあずけた。そう、なにもかも、すべて。
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