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「早く、早く!始まっちゃうよ」
潮風が颯爽と吹き抜ける大通りで、一人の男児が大きく手を振り両親を急かしている。
目指す店は既に賑やかな歓声で沸き立ち、町内を活気づかせているかのようだ。
今年の水神祭に於いて、最も重要かつ庶民の娯楽でもある催し――神饌(シンセン)を献上する料理人を決める為の選抜闘技会(通称、神饌選闘会)。
その予選が祭りの前日である今日、青浪(アオナミ)諸島の島が一つ、殻朶漓(カラタリ)島で開催されるのだ。
会場である老舗食事処【海鳥楼】に親子が到着した時、若々しい声が店内に響き渡った。
「お集まりの皆様!いよいよ栄えある神饌選闘会の予選が始まりまーす!」
水色を基調とした――流水に花々を散らした柄の――振り袖で華やかに盛装した娘が、店内を見渡し告げる。
客席を片付け中央に調理台を並べた急拵えの会場には、五百人程の観客が集まっていた。
殻朶漓は青浪国で二番目に大きな島だが、島民の十人に一人は見物に来ていると言える。
「進行は私こと海鳥楼の看板娘、茉莉花(マリカ)が務めさせて頂きます。ちなみにお婿さん募集中でーす!」
「茉莉花お嬢ーー!」
「僕と結婚して下さい!!」
茉莉花のすぐ後ろから、海鳥楼の料理人達が野太い声を返す。
「良かったな。すぐに相手が見付かりそうで」
調理台の傍に立つ青年が冷やかに零すと、看板娘は引き攣った笑みを浮かべて咳払いした。
「コホン。失礼。では殻朶漓の代表を決する戦いであります、第一試合の挑戦者を紹介します。先ずは我が海鳥楼の若き副料理長、秋任 刃(トキトウ ジン)!」
「おい、串焼き屋!お嬢への侮辱は許さんぞ!」
名の通り、刺身包丁のような鋭さを双眸に宿した副料理長が、凡庸な顔立ちの青年を睨む。
だが相手は、さも面倒そうに応じてみせた。
「侮辱した覚えは無いが。お喋りがしたい訳じゃないから、進めてくれ」
「はいはい。えー、此方は皆さんもご存知、東通りの外れで串焼き屋を営む青年、漁(リョウ)!彼の串焼きは、家の従業員もこっそり食べに行ってるくらい評判でーす」
「お嬢さんも来てるだろ」
「何っ!? 俺の作る賄いでは不満なのですか、お嬢!」
漁の告げ口に秋任が目を剥くが、悲痛な叫びも素知らぬ振りで茉莉花は続けた。
「それでは、島代表の座を懸けて――選闘会予選第一試合、調理開始!」
大きく片眼を瞑って彼女が宣言すると同時に、重々しい銅鑼の音が人々の鼓膜を震わせる。
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