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「葛葉(クズハ)姐さんの所で遊んでた訳じゃなかったんすね!」
「馬鹿者!! 当然だっ!それと葛葉はただの幼馴染みだ!」
一言多い後輩達を怒鳴り付けながらも、最後に刻んだ分葱と白胡麻を混ぜて、秋任はタレを作り終えた。
観客が更に盛り上がるのを余所に、漁は蜥蜴の焼き加減を見つつ、何やら白い枝状の物を手に取る。
それを肉の隣に並べて表面を軽く炙ると、木槌を使って細かく粉砕し始めた。
「あら?今度は何をしてるんですか?」
木槌の音に気付いた茉莉花が訊ねる。
「海水の溜まった地底湖で採れる白珊瑚で、珊瑚塩を作っている。潮の香りが底土蜥蜴に合うからな」
「珊瑚って、食べられるの!?」
驚く茉莉花に「毒も無いし死にはしない」と素っ気なく答えながら、漁は小匙に少し掬ったのを自身の口に含んでみせた。
純度の高い精製塩や岩塩よりも塩気こそ薄いが、僅かに苦味のある珊瑚独特の風味が食欲をそそる。炙った事で香ばしさも増していた。
「串焼き屋さん、大丈夫かしら?」
「刃の勝ちで決まりだろ」
島民達が囁き合うが、白けそうな場の空気をいなすように、漁は堂々と言ってのけた。
「俺が不味い物を出した事があったか?」
確かな自信の滲む口調に、下がりかけた会場の熱が再び高まって行く。
「言ってくれるじゃねえの!」
「儂は、あんたを応援しとるよう」
串焼き屋の常連である老夫の声援に微笑むと、漁は盛り付けに掛かった。
水神を象徴する水色の皿に笹の葉を敷き、焼けた蜥蜴肉を並べて珊瑚塩を振りかける。
そして共に焼いておいた付け合わせ――茄子と莢隠元、茗荷に、もう一品――を最後に添えた。
「底土蜥蜴の珊瑚塩がけ、完成だ」
トンッと審査員席に座る神官の前に置くと、間髪入れず秋任も殻朶漓牛の鉄板焼きの皿を置く。
「両者共に、料理が完成しました!果たして、この焼き物対決を制するのはどちらか――それでは神官の槇郷(マキサト)様、試食審査をお願いします!」
名を呼ばれた神官は、人好きのする穏やかな笑顔で頷く。
「はい。水神様のお恵みに感謝して――頂戴致します」
漁と変わらぬ歳の若い神官は、首都のある鞘薙(サヤナギ)島から予選審査の為に派遣されていた。
「ふむ。どちらも甲乙つけ難い美味しさですが、そうですねえ……」
料理を一口ずつ味わってから、槇郷は思案顔で観客達を見渡すと、両親と共に来ていた男児に眼を留める。
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