あの階段を下りたなら

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穏やかな気候のこの時季は、通勤の憂鬱を幾分か和らげてくれる。 私鉄で30分、乗り換え無し。 都会のオフィスへ向かうには、恵まれた通勤条件。 見慣れた窓からの風景を見ることも無く、手元のスマホを見て過ごす通勤時間。 雑沓に紛れてホームの階段を上り、改札を出る。 何を、見るわけでも無く。 何を、考えるでも無い。 足は自然に通い慣れた道を進む。 改札を出て、右手に進み階段を上れば、通い慣れた通勤風景が続く。 何も、考えず。 何も、見ずに。 会社まで、歩ける道。 そう……何時もは、何も考えずに通り過ぎる所で何気に足が止まった。 左側に視線を向けた時、見慣れた改札に視線が止まった。 暫し時が止まるかのように雑踏が消えた。 ただ、改札だけを私の瞳は映しだす。 周りを通り過ぎる数多の人すらも、瞳に写ることは無かった。 改札と、その先の階段だけがそこに存在していた。
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