あの階段を下りたなら

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**** 改札をICカードで抜ける。 人の群れに逆らうように階段を下る。 ホームに停まる電車に駆け乗った。 私を待っていたかのように扉は閉まる。 都会から離れる地下鉄は、先程までのラッシュとは違う時間が流れるかの様に心を軽くする。 空いている席にも座らず、扉にもたれて立つ。 ガラス窓から外を眺める。 地下鉄の窓から見える風景は暗い。 パイプだけが交差する壁。 長い年月で煤けた黒い壁だけが目前に迫ってくる。 “次の駅で引き返そうか” 小さな葛藤を呑み込んだ。 閉まる扉を眺めて過ごす。 “この次の駅ならまだ間に合う” 又、閉まる扉を眺めてた。 窓に景色が現れた。 途中から地上を走る地下鉄は、埋立地へと向かう。 晴れ渡る空に広がる自由な雲を見つめ、潮風が見えた気がした。 “海に行こう” そんなに綺麗では無い都会の海。 埋立地の暗い海。 それでも吹き渡るのは潮風で、のんびりと潮風を感じ海辺のベンチで海を眺めて過ごそう。 心は既に、海を渡る風に囚われる。
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